霊山寺　副住職　東山光秀氏

　霊山寺は今から1270年余り前、天平8(736)年に聖武天皇の勅命により行基菩薩、インドの菩提僊那という僧の２人によって開かれました。その由来はさらに50年ほどさかのぼります。672年の壬申の乱の際、右大臣をしていた小野富人が戦に巻き込まれて、この山に篭ったことに始まります。山で薬草を栽培して参道の脇を流れる川に湯屋、お風呂を作って薬草風呂を建て色んな人の病を治していました。この小野富人が薬師三尊の千仏という仏様を作り、それを祀っていたことがお寺の由来です。奈良時代、天皇家の孝謙皇女が病にかかり、聖武天皇が非常に悩んでおられたところ、この小野富人が枕元に立ち「湯屋の薬師さんをお祀りせよ」と言ったとのことで、早速、行基菩薩にお堂の建立を命じました。完成間近の夏にインドからバラモン僧の菩提僊那が大阪の港に着き、大安寺のお寺に泊まっていたのですが、このお寺のすぐ南側の峠を越えた際にこちらに立ち寄りました。この山の形がインドの霊鷲山に似ていて懐かしいと感じたそうです。もしこのお寺に名前がないのなら、霊鷲山にちなんだ名前をつけて欲しいということで、霊山寺という名前をいただいたのです。平安時代には弘法大師（空海）もこちらに立ち寄り、この山に非常に力の強い龍神がいると感じ、龍神を弁財天として奥の院におまつりされました。その後、鎌倉時代の蒙古襲来の時には、このお寺でも戦に勝てるよう祈願し、功績があったといういことで本堂が改築されました。弘安6年、1283年に改築されてからは一度も火災に会わずそのまま残っており、非常に繊細な格子のつくりの代表的な鎌倉時代の密教建築であるということで、現在は国宝に指定されています。その後、豊臣秀吉公、徳川家康公のご加護を受けたのですが、明治時代の廃仏毀釈、農地解放でこのお寺は誰一人としておまいりがない寂れた日が続くということになってしまいました。しかし昭和４年に先代住職の妻、私の祖母に霊感が宿り、一週間高熱にうなされて生死の境をさまよったときに、十二単を着た弁天さんが現れて、「これからお前に霊感を授けるからこのお寺を建て直せ。そして迷える方を導け」という夢を見たのです。それからは不思議なことに、弁天さんに手を合わせるだけでいろんなことがわかるようになり、悩みを抱えた方がこられたら、どんな悩みかもすぐにわかり、また未来のこともわかったと聞いています。ところで、このお寺は檀家を持たないため本来はお墓がないのですが、私たちがこうして健康でいられるのは現世利益といいましてご利益をいただくからで、元気で活動させていただいているのはご先祖のご加護あってこそ、ご先祖を供養するということもお寺として非常に大切な役割であり、両方を兼ね備えたお寺になろうと、昭和15年に３万坪の大霊園を作らせていただきました。またこのお寺にはバラ園があり、200種類2000株のバラがあります。私の祖父が第二次世界大戦で出征し、２年間シベリアに抑留されたのですが、やっとの思いで帰ってきた時、一番願ったことは何よりも世界平和です。このお寺にこられた人に心の安らぎを感じていただきたいということで、花園を作ろう、バラは世界すべての人に一番愛されているんじゃないかということで昭和32年に開園し、今年でちょうど50周年です。バラは棘があって、お寺にふさわしくないという声もありましたが、本堂から見てバラ園が鬼門の方角に当たるということで、邪を寄せ付けないということもありますし、バラというのは元々インド、中国が原産のアジアの花です。お釈迦様が出家をされる動機にもなったのもバラの花だといわれ、仏教にも非常に縁のある花だといえます。最後になりますが、私は10年ほど前に、骨髄移植によって白血病から回復された大谷貴子さんにお会いする機会がありました。大谷さんは、私たちは自分で何でもやって生きていると思いがちですが、空気がなくても水がなくても太陽がなくても生きていけないし、何より人と人との支えあいがなければ生きていけないと感じたとおっしゃっておられました。真言宗の偈文にも同じ意味の内容があり、私はこの大谷さんの言葉に非常に共感いたしました。今日は霊山寺に来ていただいて、みなさんそれぞれが今生かされていることに感謝しておまいりいただけたらと思います。心の健康、体の健康両方をご祈念いただき、何よりも健康というご利益を持って帰っていただければ幸いです。